乳がん手術の変化

 現在の乳がんの治療で、基本となるのは、乳房内にできたガンを取り除く手術です。
手術の方法は、ガンの種類、しこりの大きさや広がり、進行度などによって異なりますが、
最近の傾向としては、可能な限り小さい範囲でガンを取り除く手術が行われています。
 以前は、乳房を大きく切除すれば、再発を防ぎ、生存率も高めるとされていたため、乳
房、周囲の皮膚、胸の筋肉(大胸筋、小胸筋)、腋の下のリンパ節など大きく取り除く手
術(ハルステッド法)が中心でした。
 しかし、その後、大きく切除しても生存率には殆ど影響がないこと、手術だけでなく放
射線治療、抗がん剤治療、抗ホルモン剤治療などが進んできた事により、手術で取り除く
範囲は、小さくなってきています。乳房は切除するが、大胸筋、小胸筋は残して、胸の変
形を少なくする胸筋温存乳房切除術(全摘)、乳房もできるだけ残す乳房温存手術(部分
切除)という方法です。
 これまで、日本では、胸筋温存乳房切除術が一般的な手術方法で多かったのですが、乳
房温存手術がもっとも多い手術方法となりました。(日本乳癌学会、2003年)
 また、最近の傾向では、一般的に行われていた、腋の下のリンパ節を取り除く「リンパ
節郭清(かくせい)」についても、最小限にしたり、省略されたりしています。さらには、
がん細胞を取り除くだけでなく、乳房切除後に、形成手術によって乳房を作る(乳房再建
術)ことも増えてきています。
    

 
<乳房温存手術>
 乳房温存手術では、しこりを含む乳腺の一部を切除して、基本的には乳頭、乳輪は残す手術です。
  
乳房温存療法
 乳房温存手術でしこりを切除した後に、残
した乳房に放射線をかけます。残した乳房内
に残った、あるいは目に見えない微小ガンを
破壊するためです。乳房温存手術と放射線治
療をあわせて行う方法を「乳房温存療法」と
いいます。
 乳癌の手術は、乳癌細胞を全て切除するこ
とが第一ですから、しこりが大きい場合や、
乳管内に広く広がっている場合は、温存手術
は難しい事もあります。また、手術後に5〜
6週間の放射線照射が必要になるため、放射
線照射が可能な事も条件の一つです。
 しかし、これらの基準を満たしていなけれ
ば乳房は残せない、基準に合っていれば必ず残せる、ということではありません。様々な場合が
あります。
 
 
乳房温存療法の適応ガイドライン                       

腫瘤の大きさが3.0cm以下
各種の画像診断で広範な乳管内進展を示す所見のないもの
多発病巣のないもの
放射線照射が可能なもの。以下のものは原則として除外
 a)重篤な膠原病の合併症を有する
 b)同側胸部の放射線既往照射のあるもの
 c)患者が照射を希望しないもの
患者が乳房温存療法を希望すること

    (日本乳癌学会学術委員会による.1999)

 
<腫瘍(しこり)の大きさ>
・しこりの大きさが、ガイドラインよりも大きい場合でも、手術前に化学療法を行ってしこりを
小さくして、乳房温存手術を行う方法もあります。
・乳房の大きさによっても、切除する部分の割合が違ってきます。例えば、もともとの乳房が大
きい人であれば、ガイドラインよりも腫瘍が大きくても、乳房温存手術が出来る場合もあります。

 
<がん細胞の乳管内での広がり>
・手術前の画像診断でわかっていた以上に、乳管の中にガンが広がっている、つまり、手術中に
切除した組織の端にがん細胞が見つかった場合です。このときは、予定よりもさらに乳腺を切除
するので、形よく乳房が残せない事が多く、全切除になったりします。

 
乳房温存手術の分類
 乳房温存手術は、切除する範囲によって、「
扇状部分切除術」と「円状部分切除術」があります。

<円状部分切除術>
 しこりから1〜2cm離れたところの、正常と思われる周囲の乳腺も一緒に円形に切り取る方法
です。

   
長所: 扇状部分切除術よりも切除する範囲が小さく、乳房の形の変化は小さいです。

   
短所: 切除する範囲が狭いので、扇状部分切除術より、ガンを取り残す可能性が高く
       なります。


最近では、乳房の手術の傷跡を少なくする方法として、内視鏡併用手術も試みられています。
乳房温存手術は、乳房切除術よりも、乳房内再発の可能性が高い事を知っておきましょう。
ドクターの経験や技術、考え方によっても多少違ってくるので、ドクターからよく説明をしてもら
いましょう。納得のいく方法をドクターと十分に話し合って、自分で決める事が大切です。


リンパ節郭清
 「郭清(かくせい)」とは
 乳房から腋窩(えきか=腋の下)にかけては、複雑なリンパ管が
発達しており、リンパ管の途中にリンパ節があります。
 浸潤ガンでは、乳腺からリンパ節に広がり、さらにリンパ管を通
って全身に広がるおそれがあると考えられ、手術時に腋の下のリン
パ節を取り除きます。これを「腋窩リンパ節郭清」といいます。

 
郭清をする理由
 取り除いた(郭清した)リンパ節への、ガン細胞の転移の有無を
調べるためです。
 もし、リンパ節に転移がある場合は、いくつあるかなどによって、
乳癌の進行度がわかります。進行度を師って、その後の治療方針を
決める手がかりにするためです。
 また、腋の下のリンパ節にがん細胞があった場合、そのリンパ節を
取り除き、そこに局所再発が起こる危険性を回避するためです。

 
郭清範囲
 腋窩リンパ節は、脂肪などの皮下組織の中に、血管(腋窩動静脈)や被経(肋間上腕神経)と一緒
にあります。腋窩リンパ節は、小胸筋を中心にしてレベルT、U、V、最上部鎖骨下に分けられます。
   レベルT:小胸筋より外側のリンパ節
   レベルU:小胸筋の裏側のリンパ節
   レベルV:小胸筋より内側のリンパ節
   最上部鎖骨リンパ節
目に見えるリンパ節転移がない場合、レベルTあるいは、レベルUまでの切除を行っています。しか
し、現在、郭清する範囲は出来るだけ小さくなってきています。それは、次に示したような障害を最
小限に抑えるためです。

   
リンパ節郭清により起こりうる障害
 
<知覚障害>
 腋の下の部分には、肋間上腕神経という知覚神経が、腋窩リンパ節の間を縫うように走っています。
腋窩リンパ節を郭清する時は、腋の下の脂肪組織ごと切除されますので、どうしても肋間上腕神経を
触ったり、肋間上腕神経の一部が切断されます。そのため、上腕の内側には、ピリピリした感じや、
触られても触れた感じがない、などの知覚異常が起こることがあります。

 
<腋のつっぱりや痛み>
リンパ節を取る場合、周囲の脂肪組織ごと取ります。腋の下〜周囲の脂肪は、腕や肩をスムーズに動
かすときに大切な役割を果たしていますが、それら脂肪が無くなると、脇から上腕にかけての痛みや
つっぱり、肩の動きに制限が生じることもあります。

 
<リンパ浮腫>
リンパ節を切除することでリンパ管が切断され、リンパ管をスムーズに流れていたリンパ液が滞って
しまいます。リンパ液の流れが悪くなり、リンパ浮腫(むくみ)が起こるおそれがあります。
 

すべての情報は、「乳癌患者ステーションTODAY」より参照させていただきました。